国連人口基金事務局長トラヤ・A・オベイドからのメッセージ

『世界人口白書2004』 世界同時発表に際して

2004年9月15日

皆さま、おはようございます。

再びこのロンドンにて国連人口基金『世界人口白書2004』の発表ができますことをうれしく思います。今年の白書のタイトルは、「カイロ合意の10年:人口とリプロダクティブ・ヘルス―貧困に終止符を打つための地球的取り組み」となっております。

今から10年前、およそ179の国の指導者がカイロでの国際人口・開発会議(International Conference on Population and Development, ICPD)に集い、画期的な合意を採択するに至りました。それは、人間の福利を向上するには貧困の削減と女性の地位向上および性と生殖に関する医療体制の普及とを関連させていかなくてはならない、というものです。

カイロ会議での合意が画期的であるのは、人口政策の転換をうったえたことにあります。それは、人間の「数」の問題から人間の「権利」や「選択」へと焦点を移したということです。人間への投資こそ、持続した経済成長や持続可能な開発、そして環境や限りある資源とも調和の取れた人口へと導く鍵であります。

20年にわたる「ICPD行動計画」の中間地点である今年2004年は、これまでの実績を評価するときであります。皆さまもまだ記憶に新しいことと思いますが、ほんの2週間前に世界円卓会議がここロンドンで開催されました。世界から700余名が集い、この画期的なカイロ合意の意義を再確認し、これからの 10年でさらなる進展をめざし話し合いをしました。

今年の『世界人口白書』は、いわばこうした地球的な取り組みのひとつとして、カイロ行動計画の実施における各国の進捗や制約、そして満たされていないニーズについて精査するものです。

私たちが成し遂げたことは多くあります。昨年国連人口基金が行なったアンケート調査では、回答を寄せた169カ国で「ICPD行動計画」が国家開発計画の一部として採用されていることが明らかになりました。地域会合の場でも、多くの国がさまざまな圧力に屈することなく「行動計画」への取り組みを再確認し、「行動計画をなきものにしようとする勢力には断じて屈しない」と発言しています。
白書で取り上げている成果には目を見張るものがあります。

  • 1994年以降、開発途上国151ヶ国のうち99パーセントが、少女や女性の権利を保障する対策をとるようになりました。この中には、国内の法整備による女性の権利保障が含まれます。
    131ヶ国で、政策、法制、制度を変更し、性と生殖に関する権利(リプロダクティブ・ライツ)を認めるようになりました。また、多くの国で、性と生殖に関する医療の第一次医療への統合、施設の改善や医療従事者の訓練、家族計画方法の選択肢の拡充など、対策がとられるようになりました。
  • 近代的避妊方法の実行率は、1994年の55パーセントから61パーセントまで上がりました。
  • 世界の75パーセントの国が、HIV/エイズに対する国家戦略を持っています。
  • 政策協議の中で以前までは多くの問題が無視されて来ましたが、中でも、ジェンダーに基づく暴力、安全でない人工妊娠中絶および中絶後の処置、危険な伝統的習慣、若者のリプロダクティブ・ヘルスや人権、また自然災害や紛争の影響を受けている女性のリプロダクティブ・ヘルス支援などは、今日に至ってようやくその問題への取り組みが見られるようになってきました。
  • 私たちは、目的としているグループに耳を傾け、協力体制を確立して行かなければならないということを学びました。 ICPD行動計画を実施する上では、必ず国と地域社会の事情や住民の感情をよく踏まえ、地域に根ざしたものでなくてはなりません。若者を代表する人たちは若い世代とどう接したらいいかを最もよくわかっているという点で、HIV/エイズとともに生きる人々は全ての人々にリプロダクティブ・ヘルス/ライツを保障する取り組みにおいて、私たちの重要なパートナーです。

このように、現在では第一段階を終え、法律や政策が整備されています。私たちがしなくてはならないことは、行動を強化しより多くの結果を出すことです。白書にもあるとおり、今までの進展は不均等でした。やらなくてはならない課題は多く、非常に困難であります。

  • 貧富の格差は医療サービスへのアクセスという面で、いまだ世界中で明らかに存在しています。開発途上国に住むおよそ2億人の貧しい女性が、ひき続き効果的な避妊手段を与えられていません。
  • 2003年には、約300万人がエイズで死亡しました。そして、推定で500万人が新たにエイズに感染し、その半数は女性であります。新たな感染者の半数は、15歳から24歳の若い世代に起こっています。にもかかわらず、感染リスクの高いとされる人々の5人に1人しか改善された予防対策にアクセスすることができません。差別や性暴力によって何百万人の女性や10代の少女が危険にさらされています。
  • 人口増加は貧困層の悪化に拍車をかけると同時に、地球環境にも莫大な負担をかけています。世界人口は現在の64億人から2050年には89億人に増えるとされています。多くの地域で家族の人数が減少していますが、最も貧しいとされる50カ国では、人口は3倍に増加し、17億人になるとされています。
  • 苦しみ死んでいくのが貧しい女性であるために、妊産婦死亡という問題はないがしろにされています。妊産婦死亡数は、数ある人口指標の中でも、先進国と開発途上国との間で格差のもっとも大きいものです。耳にたこができるほど聞いたことかもしれませんが、繰り返さずにはいられません。毎分一人の妊婦が妊娠・出産の合併症によって命を落としています。年間で52万9000人の妊産婦が死亡し、家庭やコミュニティから母の存在を奪っているのです。アフリカでは、 16人に1人の女性が合併症によって死亡います。先進国では、2800人に1人の割合でしかありません。妊産婦死亡を下げる方法はわかっているのです。出産には熟練した付添い人を立ち会わせ、緊急時には産科医療を整備し、優れた医療施設を持つ病院などにすぐさま搬送できるような体制をより多くの女性に広げていけばいいのです。

母親が安全に生きていける世界とは、すべての女性、少女が安全に生きていける世界ということです。女性の地位を向上し、機会と選択の幅を広げ、人類の半分を占める女性が社会に十分に参画するということなのです。

白書には、たった一つの地域プログラムによって大きな変化をもたらした例が詳述されています。セネガルにあるグーディリーという村では、妊産婦は70キロ先の病院まで険しい道をロバ荷車に乗って行かなくてはなりませんでした。合併症を起こした妊産婦は多くが病院まで間に合わず、命を落としていたのです。 2001年になって、UNFPAの支援により、村にある小さな診療所を緊急産科医療が施せる施設に拡張したところ、これまでに100人以上の妊産婦の命を救うことができました。しかし、何百万人もの女性の命を救うためには、こうした施設を何千、何万カ所と増やさなくてはならないのです。

ここにきて、白書の結論はとても残念であるといわざるを得ません。すなわち、資金不足が更なる進歩を妨げているという事実であります。やるべきことが山のようにある中で、国際社会の反応は、率直に申し上げて、嘆かわしいほど不十分なものです。

開発途上国の80パーセント以上が現在の資金では性と生殖に関する健康をすべての国民に保障することはできないとしているにもかかわらず、拠出国は「行動計画」実施のために必要な額のうち拠出の約束をした分のおよそ半分しか払っていないのです。2005年までに毎年61億ドルを拠出するとしながら、実際には毎年31億ドルにとどまっています。

より裕福な開発途上国は、年間推計117億ドルを「行動計画」推進のために集めていますが、最貧国とされる国々では、もっぱら先進国からの拠出によって、家族計画や性と生殖に関する医療改善、HIV/エイズ対策、研究・政策立案などを行なっています。

拠出国が避妊具(薬)やHIV/エイズ予防用のコンドーム供与に拠出する金額は、この10年間で減少しています。しかし、こうした避妊具(薬)の需要は、 2015年までに約40パーセント増加すると見込まれています。避妊具(薬)がなければ、安全な生殖活動を行なうことはできず、健康を害し幸福な生活を送ることができません。サハラ以南のアフリカ諸国では、男性一人が使用できるコンドームの数は年間わずか3つです。この数字そのものが、逼迫した現状を物語っているのではないでしょうか。

多くの開発途上国では、資金の拡充、情報交換や技術供与による、人的資源や財源そして技術的な能力強化の必要性がますます高くなっていて、これによって国内の医療体制強化や成功しているプログラムを拡大していかなくてはなりません。開発途上国では、熟練した医療スタッフが能力を発揮し、もっとも必要なときに必ず対応ができるという体制作りが重要なのです。こうした課題はすべて、十分な計画のもとに人的資源・財源が最も効率よく使用、運営されることで、いい結果をもたらすことができるのです。

国際的支援がカイロ会議で合意されたレベルに達しない限り、家族計画、妊産婦医療、HIV/エイズ予防・検査・治療を必要とする人々の数は増え続けることでしょう。性と生殖に関する医療体制が整わなければ、開発途上国における女性の死亡が削減されることはないでしょうし、エイズの蔓延が広がり、破壊的な影響を与えることはまぬかれません。

国連が近年掲げているミレニアム開発目標(MDGs)には、極度の貧困と飢餓の削減、妊産婦・乳幼児死亡数の削減、エイズ蔓延の予防などが含まれていますが、このMDGsは「ICPD行動計画」の実施を国際的な課題の最優先に持ってくるものであるともいえます。実際、2015年までにすべての人々に性と生殖に関する医療サービスを行き渡らせるというICPDの目標は、まさにミレニアム開発目標達成にとって欠かせないものであります。しかし、これを実現するには、「開発支援の取り組みを、宣言を出すことから活発な協力体制と人的資源、財源の投資へと移行すること以外ない」と白書を締めくくっています。

私たちは引き続きより強固で戦略的な協力体制を築いていかなくてはなりません。そして、効果的な法制や政策を実現するために努力し、資金援助は「行動計画」をすべての人々にとって現実とするために使われているということをうったえ続けていかなくてはなりません。

今年の白書は、端的に申せば、政治的意思と財源を動かしてカイロで掲げられたビジョンを現実のものとするということであり、各国政府に対しては、教育、医療、女性や若者の人権への投資を通じて、より公平で持続可能な世界を築いていこうといううったえなのであります。

ご清聴に感謝いたします。

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